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中庸

裸の心で書くブログ

世界は美しくなんかない。そしてそれ故に、美しい。

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キノの旅というラノベがある。で、ここで、原風景という単語を選択するのが正しいかは別として、俺にとってキノの旅はそういう類の作品である。それはつまり、俺の性癖だとか基本的な考え方だとか、そういう根っこの部分がかなりの部分でこの小説に影響されているということに他ならない。あのどこかニヒルでシニカルで世を拗ねた感じの生き方は、当時小学校高学年くらいだった俺にとってとても魅力的に見えたのである。小学校も高学年となると、友人との関係性というのが著しく変わってくる時期だというのは皆知っている通りだと思うのだが(つまり友人の選択に見栄だとか地位だとか、そういう要素が加わってくる時期なのだ)、俺にとってもそれは同様で、しかし俺はそういう変化があまり好ましいものだとは思えなかった。これまでのように男も女も関係なく、駆け引きだとか利害だとかそういう概念を必要としない関係に安住していたかった。けれども社会というのは俺の意志とはまるで無関係に形を変えていくもので、それまでクラスの中心的人物として君臨していた俺は、以前とはまるで形の変わってしまった人間関係に疲弊し、そして少しずつクラスでの存在感を失っていった。あるいはそれは周囲からは一種の脱落という風に見えたのかもしれない。

兎も角、俺が本格的に読書に耽るようになったのはその頃からである。それまでも本を読むのはまあ好きな方だったけれど、消極的選択として読書という行為に至っていた気がある。つまり友人との遊びの約束がどうしてもつかなくて、ゲームをやっていてもどうにものめり込むことが出来ないという限定的状況下において俺は読書をしていた訳だ。ブラッカブロッコ島とかズッコケ三人組とか。

しかしまあ小学校高学年ともなるとその辺りの児童向け小説だけでは知的好奇心を満たすに至らず、そしてふらふらと普段とは別の棚に救いを求めた俺は、そうしてキノの旅にであったのであった。

――今思えは、どうして一介の町立図書館にラノベが置いてあったのだろう。当時はそこまでラノベという文化が根付いていた訳でもあるまいし。まあ恐らく、職員の中に誰かそういう文化に寛容、というかのめり込んでいる人がいたのだろう。他にも色々ラノベ置いてあったし。ブギーポップとか。んでコイツも確実に俺の性格を歪めてる。

そしてようやく話題は件の小説にたどり着く。さて、このキノの旅という小説は、読了した者には分かると思うのだが、かなりどぎつい皮肉小説である。この我々の住む世界に内在する矛盾というやつを、物語に出てくる「国」という形で簡略化し、そしてキノは国を訪れ、様々な矛盾に直面する。そうしてなんやかんや一波乱があり、国を後にする。延々とその繰り返しである。キノはそれらの矛盾に対し、基本的には何も解決しようとしない。ただ己の身体を、あるいは心を守るためだけに努力するのである。

当時まだ小学生だった俺は、世界というのはなんだかんだ言っても完全な存在だと信じて疑っていなかった。親や学校の先生というのは正しいことだけを話し、そして実践する存在だと思っていたし、世界は常に平等だと思っていたし、民主主義国家というものに対して絶対的な安心感を抱いていたのである。どこにでもいる純真無垢な小学生だ。

それがまあ、キノの旅を読んで色々と考えを改めるに至ったのである。いわゆるパラダイムシフトというやつだ。そしてそれは俺にとって、少年期の終りのようなものであったのかもしれない。そう、色々と考えされられる小説なのだコイツは。

あとはただひたすらキノが可愛い。俺が僕っ子で中性的でやれやれ系の子が好きなのはキノが原因であることに議論の余地はない。あとゴーグルとトレンチコートもな!それにしても中性的な子はどうしてあんなに可愛いのか。俺はいわゆる女性的、母性的な要件を満たしたキャラには昔からあまり惹かれない。たぶん女性を女性として捉えるのが苦手なのだと思う。女性ではなく相方、パートナーとして捉える場合、中性的なキャラのほうが精神的距離感が近くて良いのかも。

 

とまあ、俺のボクっ娘好きは兎も角として、どうして今更キノの旅について述べたかというと、それは俺が現時点でキノの旅を読み返しているからに他ならない。そんでもってこの小説をもっと様々な人に読んでほしいという思いがある。いや、かなり有名な小説なので少なくてもラノベ好きの方々は一度は読んだことがあるとは思うのだけれど。でもってこの小説はいわゆる「ラノベ色」(これについて定義を述べようとするとまたひたすら長文の残骸が出来上がるだけなので今日は止めとく)があまり強くはないので、一般文芸しか読まない人でも十分楽しめると思うのだ。そういえば星の王子様という有名な古典小説があるけれど、あんな感じである。星の王子様好きな人は読んでおいて損はない、と思う。